麻酔医不足

癌専門病院「国立がんセンター」の麻酔医不足と手術待ち。がん治療での麻酔科医の不足は深刻、一人で複数の手術を掛け持ちする大学病院もある。(2004年7月8日、読売新聞)

麻酔医不足とガンの手術待ち

国立がんセンター中央病院(東京・築地)の外来は午前中、連日のように、過密な運行ダイヤの乱れを調整する鉄道指令室さながらの慌ただしさに包まれる。

診察は予約制だが、まず「定刻」には始まらない。新規患者の飛び込みが続くと、診察室のパソコン画面の予約表は大幅に書き換えられる。

診察待ち20-30人

受付の機械に患者が診察券を入れると、画面に映し出されるのは「10人以上の患者様がお待ちになっています」の文字ばかり。看護師は「20-30人待ちも珍しくない。診察まで3、4時間かかることもあります」と恐縮して言う。

呼吸器外科の医師

1日50人の患者を診察

週2回、呼吸器外科の外来を担当する医師は、1日約50人の患者を診察する。一人あたり10分間の予定が、新患では長引くことが多い。午前8時半から夕刻まで、休憩時間もなく診察は続く。

ガン手術後の定期受診

大半はガン手術など治療を終え、定期受診の患者だ。アメリカでは、こうした退院後の健康管理は、がん専門病院ではなく、近くのかかりつけ医が担う。だが、開業医と病院の連携が不十分な日本では、患者は病院に通い続け、外来があふれかえる。日本の医療の構造的な問題が、がん治療の総本山にも影を落とす。

研修医

「飲まず食わず」の外来の後も、研修医の教育のための症例検討会、翌日に手術を控えた患者への説明、入院患者の手術後の管理など、分刻みの日程が続く。帰路につくのは毎晩11時ごろ。翌日には、早朝の回診や長時間の手術が待っている。

手術件数は年間660件

3人の呼吸器外科医の年間手術件数は、約660件。肺がん手術では国内で群を抜く。

「最高の手術を学び、腕を磨きたい」と、国立がんセンター中央病院に入った医師が実施した手術は累計1000件を超えた。この病院での肺がん手術に伴う死亡は、2003年ゼロ。安全性の高さを物語る。

手術に欠かせない麻酔科医の不足

「丁寧な手術をすれば合併症などが起きず、速やかに次の手術に移ることができる。手術件数はまだ増やせる」と言う。だが、壁も立ちはだかる。手術に欠かせない麻酔科医の不足だ。

手術室15、麻酔医9人

この病院には15の手術室があるが、常時稼働しているのは10室に過ぎない。麻酔科医が9人で、手術室の数より少ないからだ。研修医が麻酔科医を補佐して10室がやっと回る状態で、呼吸器外科では手術まで1か月待ちの状態が続く。

看護師が麻酔科医を補佐する看護麻酔士の資格創設を

麻酔科医の不足は全国的な問題で、一人で複数の手術を掛け持ちする綱渡りの医療機関もある。副院長は「看護師が麻酔科医を補佐する『看護麻酔士』の資格を新設すべきだ」と提案する。

麻酔科医とは

医師免許の取得後、麻酔の指導者がいる病院で、2年以上の研修を積むなどした医師が、厚生労働省への申請を経て麻酔科を名乗ることができる。日本麻酔科学会が認定する麻酔科専門医は、さらに3年の経験と試験合格が必要。全国には9000余の病院があるが、麻酔科専門医は約5300人にとどまる。